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Cu表面上のNi超薄膜において軌道磁気モーメントによって誘起された2つの正反対のスピン再配列転移

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我々は、清浄なCu(001)と予め酸化されたCu(001)表面上に成長したNi超薄膜にさらにCuで表面を被覆した系において、 容易磁化方向が表面に平行から垂直となるスピン再配列転移とその逆である容易磁化方向が表面に垂直から平行となるスピン再配列転移の2つのスピン再配列転移を観測しました。

 磁気光学Kerr効果の測定により、Ni超薄膜表面をCuで覆うことで、清浄Cu(001)表面上での作成の場合は垂直に磁化することが安定となり、 一方、予め酸化されたCu(001)表面上での作成の場合は表面平行に磁化されることが安定になることがわかりました。

 これに対応して、X線磁気円二色性測定から、Ni超薄膜表面をCuで覆うことで、清浄Cu(001)表面上の場合は表面平行方向の軌道磁気モーメントが減少し、 一方、予め酸化されたCu(001)表面上の場合は表面平行方向の軌道磁気モーメントが増大することが示されました。 今回の研究結果により、界面相互作用に敏感な表面平行方向の軌道磁気モーメントの変化がスピン再配列転移を誘起することをはっきりと示されました。


(a) 清浄なCu(001)表面上に5原子層のNiを成長させた後Cuを2原子層被覆した系。p(1´1)パターンを示す。

(b) Cu(001)表面上を予め表面酸化させた表面。(2O2´O2)R45°パターンを示す。

(c) (b)の表面に5原子層のNiを成長させた表面。c(2´2)パターンを示す。

(d) (c)の表面にCuを2原子層被覆した系。(a)とは異なりc(2´2)パターンを示す。

(e) Cu(001)表面上を予め酸化させた表面(黒)、その上にNiを10原子層成長させた表面(赤)、さらにその上をCuで0.2原子層(緑)、2原子層(青)、10原子層(ピンク)被覆した表面のO-KLL Auger電子強度の変化。 これらの結果から、上からNiやCuをかぶせても酸素原子は常に表面に局在していることがわかる。  
図1 Cu(001)表面上でのNi成長過程におけるLEEDパターン(a)-(d)とAuger電子スペクトル(e)。

(a) 清浄なCu(001)上に成長させたNiをCuで被覆した系の零磁場下における極Kerr効果強度。零磁場下における極Kerr効果強度は表面垂直方向の残留磁化に比例する。Cu被覆がない場合は9.5原子層程度より厚い膜で垂直磁化が観測され、この膜厚が転移膜厚であるが、Cu被覆とともに転移膜厚は減少し、Cu 2原子層被覆では6.5原子層程度となる。Cu被覆により垂直磁化領域が広がり垂直磁化が安定化されたといえる。

(b) 予め表面酸化されたCu(001)上に成長させたNiをCuで被覆した系の零磁場下における極Kerr効果強度。Cu被覆がない場合は5.5原子層程度より厚い膜で垂直磁化が観測され、この膜厚が転移膜厚であるが、Cu被覆とともに転移膜厚は増大し、Cu 2原子層被覆では7.5原子層程度となる。(a)とは逆にCu被覆により垂直磁化領域が狭まり垂直磁化が不安定化されたといえる。
図2

(a) Cu(001)上に成長させた5.5原子層Ni薄膜をCuで被覆した系の縦Kerr効果による磁気ヒステリシス曲線。Cuを被覆していくと保持力(磁化が反転する磁場)が減少している。

(b) 予め表面酸化したCu(001)上に成長させた4.8原子層Ni薄膜をCuで被覆した系の縦Kerr効果による磁気ヒステリシス曲線。Cuを被覆していくと保持力がいったん増大し、その後減少に転じており、(a)と異なる挙動を示す。  

図3

(a) 清浄なCu(001)上に成長させた5.5原子層Ni薄膜をCuで被覆した系。斜入射で測定し、表面平行磁化成分を検出している。Cu被覆とともにXMCD強度は単調に減少している。

(b) 清浄なCu(001)上に成長させた10.5原子層Ni薄膜をCuで被覆した系。直入射で測定し、表面垂直磁化成分を検出している。Cuを被覆してもXMCD強度はほとんど変化しない。

(c) 予め表面酸化したCu(001)上に成長させた4.8原子層Ni薄膜をCuで被覆した系。斜入射で測定。Cu被覆とともにXMCD強度はいったん増加し、後に単調に減少している。

図4 Ni L2,3吸収端X線磁気円二色性スペクトル。

磁気光学Kerr効果により求めたヒステリシス損(○印)とX線磁気円二色性により求めた軌道磁気モーメント(□印)の比較。cleanは清浄Cu(001)表面上の5.5原子層Ni、O-ads.は予め酸化したCu(001)表面上の4.8原子層Niに関して。○印と□印は似たような傾向を示す。

図5 


図6 

本研究で検討したスピン再配列転移の概要。黄色の矢印は磁化の容易軸を示す。酸素が常に表面に移動することがポイント。