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研究計画概要1

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背景
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ナノスケールの膜厚の磁性薄膜は単純な古典電磁気学からは説明できない興味深い物性を示すことがしばしばあります。

例えば,磁性体は薄膜になると,
古典論的には薄膜表面に平行に磁化される方が安定ですが,
膜厚がナノスケールまで小さくなると,薄膜表面に垂直に磁化されやすい性質(垂直磁気異方性)が発現することがあります。
あるいは,磁性薄膜層間に非磁性薄膜をサンドイッチしたものでは,
磁化の方向によって電気抵抗が非常に大きくなる現象(巨大磁気抵抗)が観測されます。  
  
このような物性を理解することは,基礎科学的に重要であるばかりではなく,応用的にもコンピュータの高密度記録・記憶媒体として注目されています。さらに,このような磁性薄膜の性質は表面を異種元素で修飾すると,大きく変化することが知られています。通常,金属磁性薄膜は,研究レベルでは貴金属薄膜,市販品では有機高分子薄膜などで表面を保護して使用されています。  
  
当グループでは,磁性薄膜の磁気特性が表面の修飾によってどのように変化するかに興味をもって,特に,分子の吸着などの表面分子科学的な観点から,超高真空(10-10 Torr以下)中での磁性薄膜の磁気特性の制御を検討しています。

目的1
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例えば,Cu(001)上にエピタキシャル成長させたNi薄膜は,Niが8原子層で面内磁化されますが, これにCOあるいはH2をわずか0.1層程度吸着させることにより,垂直磁気異方性が発現します。
吸着分子は全体のNiの原子数に比べて1%程度しかないのに,薄膜全体磁化がいっせいに表面平行から垂直に向くという顕著な変化は, 実際に実験していて大変おもしろく感じられ,他の物性では例がないことでしょう。

分子吸着で磁気特性が巨視的に変化する現象は,数例しか報告がありません。 報告されているものについても,詳細な磁気特性はあまり調べられていません。試料の作成を超高真空中で行い,そのままの状態で超高真空中の試料に磁場を印加して 磁化測定を行わなければならないという実験上の困難があるためです。
図1  7 ML Ni/Cu(001)上のH2吸着によるX線磁気円二色性(実測)。清浄Ni薄膜では表面平行磁化だが,H2吸着後は表面垂直に磁化される。昇温によりH2が脱離し,再び表面平行磁化状態に戻る。微視的な磁気モーメントに関する知見が得られる。
 
当グループでは,さまざまなナノスケール磁性薄膜と吸着分子を対象にどのような磁気特性変化が生じるかを系統的に検討し, その発現機構を微視的に考察することを研究目的としています

目的2
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また,「分子吸着による磁性薄膜の磁化制御」という命題の逆に相当する 
磁場による吸着分子の構造制御」についても検討していきたいと思っています。外部磁場によって分子が配向することも,例はわずかですが,分子の異方的な反磁性を利用して強磁場中で可能であることが知られています。

当グループでは,磁性体を用いて弱い磁場中でも吸着分子の配向を制御したり,スイッチングしたりすることができないか,検討します。
非磁性層をサンドイッチした層状磁性薄膜における巨大磁気抵抗(模式図)。はじめが負方向磁化の場合(青線),外部磁場を正方向に掃引すると,まずmagnetic layer 2だけが正に磁化され,この状態で電気抵抗が増大する。さらに正に掃引すると,magnetic layer 1も正に磁化され,抵抗はもとの値となる。

グループ内の実験室では,超高真空中で,分子線エピタキシャル法によって磁性薄膜を作成し,磁化特性を磁気光学Kerr効果によって評価します。また,磁気特性や分子の吸着状態を微視的に調べるために,分子研内の放射光施設UVSORからの軟X線を利用したX線吸収分光やX線磁気円二色性などの先端的手法を取り入れることを計画しています。

<参考文献>
  1. T. Yokoyama, K. Amemiya, M. Miyachi, Y. Yonamoto, D. Matsumura and T. Ohta, "K-edge magnetic circular dichroism of O in CO/Ni/Cu(001): Dependence on substrate magnetic anisotropy and its interpretation,” Phys. Rev. B, 62, 14191-14196 (2000).
  2. T. Yokoyama, K. Amemiya, Y. Yonamoto, D. Matsumura and T. Ohta, "Anisotropic magnetization of CO adsorbed on ferromagnetic metal thin films studied by x-ray magnetic circular dichroism,” J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 119, 207-214 (2001).